
こんにちは。唐突ですが皆さん、「写真」って好きですか? 私は特に撮影が上手いわけじゃないんですが、高校時代にフィルムの現像や印画紙へのプリントもやっていたので、今でも「見るのは大好き」です。そんな中、東京近代美術館で気になる写真展「杉本博司 絶滅写真」展があったので、見に行ってきました。今回はこちらの報告をしてみたいと思います。
竹橋の近代美術館へ
というわけで猛暑の休日に、東京・竹橋の近代美術館にやってきました。私の母校の大学から近かったので、学生時代はよく来ていたなあ・・・当時はお金がなかったので、常設展だけ見ていました。懐かしいです。

絶滅写真 その1
では、さっそく入場して「絶滅写真」を見てみましょう。こちらの作品「ボゴット族」の画像を見て、皆さんどう思いますか?

中央の人物や牛はリアルで写真っぽいですが、背景などを見ると、なんとなく不自然な感じもします。これって、CGの合成かAIでしょ?と思う方も多いでしょう。
ところが・・実はこの写真、生身の人間や牛を撮影したものではなく、アメリカ自然史博物館にあるリアルな蝋人形!が被写体なんです。いわば「人形という虚像から、生身の人間に見える実像を作った写真」です。そして、ここではCGやAiなどのデジタル技術は全く使われておらず、以下のような方法で「撮影」されています。
【使用された技法】
1.大判のカメラを使用することで、毛肌の質感や背景のグラデーションにいたるまで圧倒的な解像度で記録する。
2.CGの後処理ではなく、撮影技術で照明やガラスの映り込みを排除し、屋外の自然光撮影であるかのような錯覚を誘発する。
3.銀塩写真(ゼラチン・シルバー・プリント)の豊かな階調を用いることで 模型特有の人工的な色彩を剥ぎ取る。
CGやAiを使わずに、「撮影」と「プリント」だけで、こんな作品が作れるとは・・斬新で驚きました。
絶滅写真 その2
次の作品名は「スタイアライズド・スカルプチャー 120 クリスチャン・ディオール, Bar 1947」。実際にディオールがコレクションに出品した作品を「撮影」したものです。陰影の付き方がCGかと思ったんですが、これも全て、「撮影」と「プリント」によって創出された作品です。

【使用された技法】
1.あえて「カラーフィルム」を採用しつつ、最終的なプリント技法には杉本の原点であるゼラチン・シルバー・プリント(銀塩写真技法)を使用。独特の化学反応を計算して撮影。
2.カメラの焦点距離を「無限遠の2倍」に設定して撮影。焦点をあえて外して(ボカして)写すことで、生地の細かな繊維やマネキンの継ぎ目といった、余計なディテールが削られ、ディオールがデザインしたシルエットの「形」そのものの美しさやボリューム感が強調され、文字通り1つの「近代彫刻(スカルプチャー)」として浮かび上がる。
3.1947年当時の理想体型のマネキンを選定。光の明暗やグレーのグラデーションが最も美しくフィルムに焼き付くよう、マネキン自体の肌の色をグレーに塗装するなどの加工を施し、人工物である衣服とマネキンを「皮膚」のように一体化して表現。
絶滅写真 その他
他の展示作品も、先に紹介したような技法を用いて「撮影された写真」であり、CGやAiではありません。「模型を撮影しているのに、生物に見える」「本来は虚像であるものが実像に見える」、その手法には感心させられます。






「絶滅写真」の存在意義
以上、杉本氏の「絶滅写真」を見て、どう思われたでしょうか? 「撮影」という行為の殆どがデジタルに移行し、フィルムカメラが「ほぼ絶滅」した今、フィルムと印画紙を使った銀塩写真でどんな創造行為が出来るのか?を考えた結果が、このような超絶技巧の「絶滅写真」だったのではないかと思います。
そして当事者だった杉本氏も高齢で、そろそろ引退する年齢になります。もし、こうした手法が継承されなかったら?? こうした銀塩写真の世界の「最後の輝き」も、それを見て楽しむ私たちの感性も、また「絶滅」に向かうのかもしれません。 (RYU)