
1996年に発表されたジャミロクワイの「Virtual Insanity」。ジョナサン・グレイザー監督による、無機質な部屋の中、ジェイ・ケイが動く床(実際は壁が動いている)を波打つように動く伝説的なミュージックビデオは、1997年のMTV Video Music Awardsでは10部門でノミネートされ、最優秀ブレークスルービデオ賞、最優秀ビデオ賞、最優秀視覚効果賞、最優秀振付賞の4冠を達成し、公開から30年近く経った今でも色褪せることなく、世界中のブランドから「使いたい」と熱望され続けている稀有な楽曲です。今回は、日本とイギリスで話題になった2つの企業コラボレーションを振り返ってみます。
床じゃなく壁をスタッフが人力で押して動かしています。単純だけどすごいアイデア!
元々は水圧で部屋を動かそうと言う構想でしたが、このような空間を動かすモーターや装置にはかなりコストがかかるため、何とかできないかと考えていたところ、床ではなく壁を動かす事を思いついたスタッフがいたとのこと。だからこそ、当時の技術と発想の面白さが今なお語り継がれているのでしょう。
日清カップヌードル(2010年)
MISIA、フレディマーキュリー、GLAY、ボンジョヴィの替え歌CMといえばピンと来る人もいるかも?
日本で「Virtual Insanity」を一躍お茶の間に浸透させたのが、2010年の日清食品「カップヌードル」のCMです。このCMは、カップヌードルの新プロモーション『この味は、世界にひとつ。』シリーズの第二弾として展開されました。第一弾のMISIA「Everything」に続く起用で、映像には本人であるヴォーカリスト、ジェイ・ケイが出演。あの「動く床」のミュージックビデオがそのまま使われました。
- 「腹へった、Oh〜、カップヌードル、五つ食べられる、ぐらい〜」 「他のじゃいやよ〜♪」
ビーフィーター(2026年)
30年という年月の流れを重ねても、やっぱりカッコいいジェイ・ケイの顔のアップ
そして2026年7月、今度はイギリス発のコラボレーションが発表されました。相手は、ロンドンを代表するジン・ブランド「ビーフィーター」。ペルノ・リカール傘下の同ブランドが展開する、ノンアルコール・ジン「Beefeater 0.0」のキャンペーンです。『Virtual Insanity』のリリース30周年を記念した新たなPV・コラボレーションとして再構築しました。
オリジナルのMVで誰もが記憶している、大きなハットと青いフリースを着たジェイ・ケイがカメラに向かって手を伸ばしながら滑るように近づいてくるあのシーン。新作PVでは、そこからその手で掴むのはBeefeater 0.0のグラスです。今回は見慣れた白い部屋だけでなく、ジムやサウナなど、新たに用意された部屋をダンスしながら次々と巡ります。オリジナル版では「壁」が動いていたのに対し、今回のリメイクでは逆に「床」が動く仕掛けに変えられています。
制作陣はオリジナルへの敬意を込め、CGやAIに頼ることなく9つの実写セットを組んで撮影したというこだわりよう。「黒いソファ」や「虫」など、オリジナルPVを意識した細かい演出もあり…ソファはついに「自走」しました。
一曲が持つ息の長さ
カップヌードルの替え歌でお茶の間の心を掴んだ2010年のCMと、ビーフィータージンによる映像作品として真正面からオマージュを捧げた2026年のMVリメイク。企業の行ったアプローチは対照的でも、共通しているのは「Virtual Insanity」という楽曲とそのMVが持つ、時代を超えたビジュアルインパクトの強さです。「未来のテクノロジー社会への警鐘」というテーマを歌った曲が、皮肉にも30年経った今、AIやCGに頼らず”実写”にこだわった映像で再解釈されているのも、なんとも示唆的な話ではないでしょうか。テクノロジーへの警鐘を鳴らした曲が、テクノロジーに頼らない手作りの映像美によって新しい世代に届けられる——そんな巡り合わせもまた、この曲らしいと言えるかもしれません。新アルバムの発表とサマーソニックでのステージにも、今後注目です。